世界三大貴腐ワイン・シャトーディケムとは?世界最高の甘口白ワインを解説

シャトーディケムは、世界三大貴腐ワインであるソーテルヌで別格の実力を持つ、フランスボルドー地方・ソーテルヌ地区の特級シャトー。

ソーテルヌ地区で唯一特級の格付けがされており、甘口ワインを語るうえでシャトーディケムは絶対に欠かせない存在です。

黄金色に輝く外観と、濃厚な蜂蜜やバニラ、熟したフルーツの甘みを楽しめるシャトーディケムは、液体の宝石とも呼ばれています。

シャトーディケムの基本情報

生産地

シャトーディケムはフランス・ボルドー地方・ソーテルヌ地区・ソーテルヌ村に位置します。

村の近くを流れるシロン川とガロンヌ川の温度差により霧が発生しやすく、貴腐菌がぶどうに付着しやすい環境が特徴です。畑面積は103ヘクタール、生産量は年間平均で10万本。

貴腐ぶどうの出来が基準を満たさない年はワイン造りが行われず、20世紀中には欠番のヴィンテージが9つあります。

生産者

シャトーディケムのワイン造りは、1711年にソヴァージュ家がディケムの土地を国から買い取ったことから始まります。

ソヴァージュ家がディケムを所有してからぶどう栽培を始め、その後は1785年にソヴァージュ家と婚姻したサリュース家がワイン造りを継承し、ディケムのワインを世に広めます。

1999年にはLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループが筆頭株主となり、シャトーディケムの所有権を獲得。

格付け

・ソーテルヌ一級特別級
1855年に行われたソーテルヌ地区の格付けで唯一の特別一級となりました

品種

  • セミヨン80%
  • ソーヴィニヨンブラン20%

セミヨン:早熟で育てやすい品種で、果皮が薄く貴腐ぶどう作りに適している
ソーヴィニヨンブラン:フレッシュな酸味、青々としたハーブや柑橘系の香りが特徴

シャトーディケムは甘口ワインの中で頂点に君臨する白ワインです。香りはバニラや蜂蜜、マーマレード、ドライフルーツなどが感じられ非常に濃密。

口に含むと滑らかな口当たりがあり、ふくよかな甘味とすっきりとした酸味が口の中に広がります。複雑な香味が鼻から抜けていき、長く深い余韻を楽しめるところが大きな魅力です。

シャトーディケムの歴史

ソヴァージュ家によってぶどう栽培が始まる

シャトーディケムの土地は、15世紀までイギリス国王が所有していました。フランスの王位継承をめぐる英仏百年戦争の結果、1453年にシャトーディケムの土地はフランス国王シャルル7世のものとなります。

ディケムの管理はソーテルヌ地区の名家であるソヴァージュ家に任せられました。ソヴァージュ家は1593年にシャトーの一部を取得し、その後も徐々に土地の買い取りを進めます。

1711年にはディケムの土地すべてを買い取り、ソヴァージュ家がシャトーディケムの正式な所有者となりました。ディケムの土地で最初にぶどうを栽培し、シャトーを建設したのはこのソヴァージュ家です。

ディケムの名を世に知らしめたサリュース家

1785年にソヴァージュ家の曾孫フランソワーズ・ジョセフィーヌが、ルイ・アメデ・ドゥ・リュール・サリュース伯爵と結婚したことにより、リュール・サリュース家がシャトーディケムの所有者となります。

しかし、サリュース伯爵は結婚の3年後に落馬事故で他界。20際の若さで未亡人となったジョセフィーヌにシャトーディケムのワイン造りは引き継がれました。

ジョセフィーヌは一族から受け継いだディケムを守るため、ワインの生産と管理に心血を注ぎます。特にぶどうの遅摘み収穫と選別を徹底的に行い、ディケムのワインは19世紀半ばごろにはすでに世界で評判となります。

ロシア皇帝のコンスタンティン大公が大金をかけてディケムを樽で買い取ったり、明治天皇が定期的に愛飲していたりと、各国の要人からの評価が高かったことも有名です。

ソーテルヌの格付けで唯一の一級特別級に

1855年のパリ万博開始をきっかけに、ボルドーワイン格付けが行われます。その際にソーテルヌ地区の格付けも行われ、シャトーディケムはソーテルヌ地区で別格のワインであったことから一級特別級として格付けされました。

シャトーディケムはすでに世界中から注目を受けていましたが、20世紀に入り貴腐ワインの存在とその醸造方法が解明されてからは、さらに人気が加速していきます。

サリュース家によって営まれていたシャトーディケムは1999年まで続き、同年からはディケムの筆頭株主となったLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループが所有者に。

現在もLVMHがシャトーディケムのワインを生産しており、サン・テミリオンの第一特別級A「シャトー・シュバル・ブラン」を手がけるピエール・リュルトン氏がシャトーディケムの社長兼CEOを勤めています。

シャトーディケムは世界最高の甘口ワイン

シャトーディケムは世界で最も優れた甘口ワインと称されています。

イギリスのワイン評論家であるヒュー・ジョンソン氏は、シャトーディケムを「甘口ワインの王様、100年以上のたっても飲み頃が続くヴィンテージがあるとの」と評しています。彼のワインガイド「Hugh Johnson’s Pocket Wine Book 2019」では、シャトーディケムに最高点の星4つの評価が付けられました。

シャトーディケムが評価されている理由は、手間暇かけた製法とその希少性の高さにあります。ぶどうは貴腐菌が付着した糖度の高いものだけを厳選し、ひと房ではなく「ひと粒」ずつ手摘みで収穫。

そのため収穫には通常の倍近い6~8週間の期間を要します。貴腐ぶどうは糖度が高くなる代わりに果汁は少なくなるため、シャトーディケムのぶどうの樹1本からはグラス半分程度のワインしか造ることができません。

さらに、シャトーディケムはその年に収穫した貴腐ぶどうの品質が基準を満たさなかった場合、ワイン生産を行わないことも。ワイン造りにおいてもぶどうの糖分を補う「補糖」を行ったことはこれまで一度もなく、シャトーディケムの目指すあるべきワインの姿を追求し続けています。

シャトーディケムは10年、20年、あるいはそれ以上の熟成が可能な無限のポテンシャルを秘めた極上の甘口ワインです。世界三大貴腐ワインのトップに君臨するシャトーディケムを、ぜひ一度楽しんでみてはいかがでしょうか。

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